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◆ 第14回 | 主なテーマ | 「音」をテーマに、ますます過激トークもありますが・・・ まぁ、まぁ・・・ |
さ |
不思議ですよね、手元でおぼつかないのに、鳴る。手元で「ワーッ」と鳴っているのに、会場で鳴らないプレーヤー・・・ |
ま |
云ったの? |
さ | うん、何故僕がそう云ったかというと、その楽器で一番最高だった例は、これは今日云いたいと思ってきたから、名誉にもかかわる事だから・・・Y君という星野プレーヤーがいて、もう二度とないと思うのだけれど、あるジョイントコ・ンサート、そこで1本の星野さんで二人弾いたのです。 |
ま | ほ〜う・・・ |
さ |
Z君というギタリストがいて、この人はフレドリッシュを持っていたのだけれど、それが壊れてしまったのです。Z君とY君とはジョイントするくらいだから友達だったのですね。Y君はいいヤツで、自分より前に弾くZ君に貸してあげたのです。なかなかできないことですよ。そうしたら、Z君が弾いて素晴らしかったのです。東京文化会館で、後ろで聴いていたのですが、みんな僕に楽器の事聞いてくるのですね。 |
ま |
ほ〜う |
さ | 種明かしは、Z君が弾いたのも星野、違う星野ではなく、Y君の星野。1本の楽器です。しかも同じ会場、同じ空気。 |
ま |
星野さんの楽器は力入れると鳴らないよね。力入れて弾いたってそれ以上にならないね。つぶれるだけだ。軽い力で弾くとよく鳴るよね。 |
さ | 響かせるかどうか。 |
ま | そう、響かせるのだね。それ以上力入れると、響きを止めちゃう。 |
か | じゃ、それは弾き手の・・・ |
さ | 技量もあるだろうし、相性もある。 |
か | 楽器をよく知って、そういう弾き方の人に良く合うと。 |
さ | 相性もあるし、僕は本当にこれはひとつの才能。音楽を奏でられるのではなくて、楽器を響かせられる才能のある人。その人はプロにはなれないかも知れない。メカニカルもそういう曲が弾けないかも知れないし、だけどさっきのYさんもそうだし、もう一人いたのだけれど、その人も素晴らしい弾き手。しかもそういう人は楽器の選択眼も皆持っている。槇さんが知っている人であげるならば、亡くなった、Kさん。彼はコンセプトは槇さんから云えば、けしからんのだけれど、持ち替えるという。楽器を選ぶセンスは認めるというか。 |
ま |
いい楽器を乗り換えてばかりいたね。 |
さ | 槇さんの許せないところは、そんないい楽器をなぜ捨てるのだ、と云うくらいに、楽器の選択眼があったでしょう? 素晴らしい楽器ばかりだった。 |
ま |
見栄えとか材料とかは気にしなかったね。 |
さ | 全然。だから選択眼と、さっきのYさんもそうだけれど、鳴らせない人は何使っても鳴らない。だからコンクールでファイナルに行ける様な人なのだけれど、鳴らせない、楽器が響かせられない人は響かせられない。 |
ま | 何でもそうなんだけど、脱力した時と力入れた時の差だと思うね。で、その楽器鳴らすのもね、きっと星野さんのはすごく弱い力から敏感に反応する・・・ |
さ | ちょっといいですか、身近な話なのですが、槇さんのプレーヤーの頃、70年代、そういうの聴いてるのは少ないけど、槇というプレーヤーは素晴らしい音、で、音って云うか楽器を響かせられる才能を持った人、だけど僕が不思議なのは槇さんは、僕初めて云うかも知れないけど、手元で聴いていてちっともいい音のしない人。そういう風に思わなかった人ですよ。 |
ま | あ、そう? 僕は手元で自分でいい音がするように弾いていたつもりだけど(笑い)。そーだったんですか? |
(突然矛先が向いてきたので周章狼狽) |
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さ |
僕はね、ずーっと先輩ですが、音の神髄というテーマだし、槇さんは鳴らせるという感じは手元ではなかったのですが、何故僕がこういう事を云うかというと、リサイタルを聴いた時に、びっくりしたんです。すごい、素晴らしい空間を作る音を出すと。もう最高だと思います。あの頃70何年、京都のコンサート(宵々山コンサート)から帰ってそのまま槇さんのコンサートに行ったのです。 |
か | すごいギャップ! |
ま |
74年? |
さ |
それは一回目、僕の聴いたのは75年10月です。京都でデートして、新幹線で京都から帰ってきて、僕は今からリサイタルに行かなくちゃいけないんだって云ってタワーホールに行ったんです。その時、も〜う、その空間の音がね。僕はいつも現実で槇さんの音はね、ホールで聴いた槇さんの音が好きだったですね。 |
ま |
ふ〜ん・・・もう、そんな機会はないのでごめんね。(笑い) |
さ |
だからね、東銀座のCと云うレストラン、そういう所で弾いていた槇さんは別にいいんですよ。(笑い)もちろんバリバリだし、当時日本人が弾かないようなプログラムをやっていましたしね、今のMくんみたいな大曲、だったのだけど、僕の七不思議の手元でどうのだけど、ホールで云ったらという中に槇さんも入っているのです・・・ |
ま |
だとすると、やっぱりベルサールの音って合ってたのかなあ・・・ |
さ |
槇さんはあのベルサール、最高だったかも知れない。 (一同、「か」を除いて、わーっとなる) |
ま |
仕方ないよ、ブーシェ買えなかったんだもの。 (10数年前、ブーシェ購入のため、ベレサール・ガルシアとマルセリーノ・ロペスを泣く泣く手放した、という過去あり) |
さ | まあ、でも今、それ持っている人いますから。K少年。彼は槇さんの痛恨のベルサールを持っているの。 |
か |
えっ、槇さんそれ手放しちゃったの? (この人は事情を知らないのです) |
な |
そっ、そんな塩をすり込むような・・・ (一同爆笑) |
か |
えっ、そうなの??? わっ可哀そうかも知れない・・・ま、たまたまお揃いの色のセーターだし(と訳の分からないフォローをする) |
一同 意味不明! (落ち込む「ま」) |
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か | なぐさめになってない? 冷や汗でてきたわ。 |
さ | わっ、先輩いじめ入っちゃったかも知れない、でも一生の不覚でしょう。 |
ま |
・・・あのベルサールってね、さっきの話、星野さんじゃないけど弱い力にすごく敏感なんだよね。 |
な | 星野さんに似ていますよね。デザインもね。 |
ま | 軽く触って出るんだよ。そこを力いっぱい弾いちゃいけない。ただこれ星野さんよりいいのは、星野さんが80以上力入れてはいけないのとするとこれは95位まで入れて大丈夫。 |
さ | 面白かったのは、僕、最初は槇さんのきらいな(?)ベディキアンの1980年を使っていたじゃないですか? 槇さんが僕に昔、なぜ君はこういう仕事をしていてこういう楽器を選ぶんだ、としかられた事がありますね。事実、僕、ベディキアンで弾いた時に一回も音、褒められた事なかった。音大きいですねえ、とは云われましたけど。ベレサールに変えてステージで弾いていたら、音がいいですね、何という楽器ですかって。みんな音をほめるんですよ。楽器は何ですか? と。ベディキアンの時は、楽器は何ですかと一回も聞かれた事ない。あの4年間。あの当時は一番よく弾いていた頃なのですけど。レッスンも受けていたし。こちらに変えた瞬間、楽器は何ですかって、弾いてるのは僕だよと。音出してるのは僕だよ、と。この変わり様はびっくりしましたね。楽器は何ですか、いい音ですねって。 |
ま | あのね、ベルサールはね、やっぱり一歩及ばなかったんだよ。アグアドに (まだ言い訳をする)。 |
さ | ですね。 |
ま |
うん、だから僕はあのアグアド手に入れた時にね、しばらく並行して持っていたんだけど・・・ |
さ | 似ているからこそ、差が判るんですね。 |
ま | アグアドを弾くともうベルサール弾けないんだよね。 |
さ | 僕、槇さんの家にこれを抱えて行った時に、このベルサールかなり自信持っていたんですよ。だけど槇さんの家であのアグアド弾かせてもらった時にね、あ〜弾かなきゃよかった。同時に弾かなきゃよかったと。同じ場所でね。 |
ま | これ(ベレサール)の方がなんか軽いんだよね。 |
な | 薄味な感じですか? |
ま | そう、薄味だよね。 |
さ | それがね、薄味っていい言葉じゃない? |
な | ああ、ちょっともの足りない、薄味なんですね。 |
さ | 薄い。ちょっと僕もマゾヒスティックだな〜 |
な | 涙目ですよ、薄いっていいながら(笑い) |
さ | やっぱり音の話に妥協はないから、自分の楽器でさえ、そう云わねばならない・・・惚れ込めないところが楽器が泣いてるかも知れないね。もっとあなたが愛情込めて弾いてくれたらそうなったのに・・・ってね、云ってるかも知れませんね。 |
ま | よくいうよ、全然弾いてないくせに(笑)。 |
さ | わぁ〜、今日はもうだめ。音のテーマで槇さんの事、最大に褒めてるのに。心のキズをえぐってしまったからな・・・うう、だめ・・・、ビール下さい。もう引け目に思っている事をグサグサと・・・ |
か | プレミアム、クラシックラガーが今日買ってきたものだから。 |
ま |
プレミアムだのクラシックだのヴィンテージだの、なにいってんだ。たかがビールに。 (一同爆笑) |
さ |
動揺してるよ。かなり動揺・・・ |
「さ」本日 ?本目のビールにかかる。(おまけの写真) 「ま」まだ思い出しながら |
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ま | あのベレサールをブーシェのために売ろうと思って持ってきた時に、さっきのKさんがちょうど来てたの。最後に名残惜しんで弾いていたらね、いい音するね、とこう云う訳。 |
さ | お互いに引き合うものがあってね、世代も同じだし。でも相譲らない訳。タイプが似てるから、喧嘩になるわけ。 |
ま | いや、喧嘩じゃなくて・・・ |
さ | いやいや、いい意味でね、両者相譲らない訳。で、こちらから見ていると大人の火花が散っている。深いよ。そんな浅い子供の喧嘩じゃないからね。もう僕なんかこちらで見ていて、ドキドキワクワク。お互いの弱点をどこで押さえるかを。 |
ま | なにを言うか。 |
さ |
いやいや、僕は見てましたよ、槇さん。お互いの弱点を探り合う大人の深さ。勉強になりましたねぇ。しかも音に関しての話だからね。もっと浅い、例えば銀座あたりの楽器自慢だと、オレはこれ持ってる、あれ持ってるだけでしょ。槇さんにとって、こいつは骨のあるヤツだと思わせた一人だと思うのですよ。だからあれだけのあざといすれすれの会話をしていたんですよ。 |
ま | すれすれの会話だなんて、そんな覚えは全然ないのだけれど。 |
さ |
いやいや、火花が散っていたな。だってすごく深い音の話をしていましたもの。 |
ま | ただね、簡単に鳴るねって云ったって、相手によって違う訳ですよ。 |
か | ああ、なるほどね。 |
ま |
だから全然知らない人に、さっきのベディキアンみたいに鳴りますね、というのと、相手がこれ位の物持っていて、これ位の音を出すという事を知っていて。ふと顔を上げて短く「鳴りますね・・・」って云うのとは。 |
か | わぁ〜、こわそう、それ! |
さ | Kさんですね、それ。 |
ま |
鳴るね、でも・・・って云った日にはね。うん (「さ」以外はK氏を知らない。そこで、ふと向き直り) Kさんという人はね、いや上手いんだよ。 |
さ | 上手いです、歳の頃は槇さんと同じ位で。 |
ま
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ちょっと上だと思うな。 |
さ |
22年生まれです。 |
ま | やっぱり上だ。亡くなって5〜6年にになるかな。 |
さ | そうですね、肝不全でした。 |
な |
お酒ですか? |
さ | いや、飲まない、全然。W大の理工学部だったですね。 |
な | 頭脳明晰。 |
ま |
そう、頭脳明晰だよ |
さ | 非常にぴりっとしたね、小柄なんだけど。 |
ま | さっきの話でそば鳴りはしないよ。 |
さ | 槇さん見てても上手だったでしょう? |
ま |
うん、うまい。 |
さ | ちゃんと音楽してましたよね。 |
ま |
雑音の無い、いい音していた。 |
さ | 最初にKさんがミックに、ベルナベを探しに来られて・・・ |
ま | ベルナベと名指しで来たの? |
さ |
名指しで。あの頃のベルナベって今のベルナベと違って、本当にある程度カリスマだったじゃないですか。で、ベルナベ名指しで来たんだけど、意外な展開になって、奥様がピアノの先生か何かでいらして、一回だけだけどご一緒に来られて、その時奥様が、「私、こちらならお金出してもいいわ」と。 |
ま | へええ。そのときベルナベもあったの? |
さ |
そう、両方比べて。でも凄くひける人だから、この人さっと決めるな、と最初は思ったのですよ。でも迷って1週間後に迷って奥様連れてきた。 |
ま | フレドリッシュは認めないなんて、そんなことないですよ。いつからそういうことになったのだろう。 |
さ | それでね、そんなKさんと槇さんの丁々発止をさ、若造がこっちで、わーこれは面白いぞって見ている訳だから。でもそこで、いつも穏便な空気を作らなくちゃっていう気持ちがあるから・・・でもあの青白い炎は忘れられないね。素晴らしい。 |
ま |
それでね、ベルサール持って行った時にも、 |
さ | ブーシェの為に出しに行った楽器だからね。 |
ま |
「これから実は売ろうとしているんですよ」って云ったら、 |
な |
すっ! すごい! |
さ | もうそういうお客さんだとね、最高な訳。 |
ま | そんな人、いないねぇ。 |
さ |
いない! 最近来るうるさい客は変なのが多い。どこかの一流会社に勤めていてたまに来る人で、インターネットがあるから妙に情報が多くて、いきなり |
ま | 単なる商品知識でしょう? |
さ | さみしい詳しさ・・・これはぜひ云ってほしい、最近さみしい詳しい人が増えたな・・・ |
ま | 株式投資なんかする人もそうでしょう? そこの会社が何を作っていてどういう物があるなんて、別に興味ない訳でしょう。株価の動きとかそういうのによっているだけで。まあ、こうして商品として並べているからには,そういうのが半分、いや半分以上紛れ込んでも仕様がないけどね。 |
さ | Kさんのもっていた楽器で、もうひとつ、日本に始めて入ったロバート・ラック、これもいい楽器でした。槇さんは永遠に好きではないかも知れないけど、あれはギターの黒船でもある。要するに、ギターって、さっきの話にあったように鳴らない箇所がある、それが全部同じ様にピアニスティックに鳴ったのがロバート・ラックなんですね。どこを弾いても同じ音。だから槇さんがきらいなのだと思いますが。 |
ま |
やはり、ここぞという所が鳴ったりね、その反面、鳴らない場所、ならないキーがあるじゃない、特定の音階、調しか弾けない・・・それが弱点でもあるし、ギターの可愛いところでもある。 |
さ |
それを具体的にフラット系を鳴らそうとしたのが、10弦ギターのイエペス、フラット系の共鳴弦をつけて。 |
ま | そうとも云えるし、セルシェルの楽器はフラット系になるんだね、結果として。 |
さ | そうですね、単三度。 |
ま | そのかわり、あの弱点で鳴りにくい所から、フラット系の数少ないギターの名曲があるわけじゃない。バリオスだとかさ。ハ短調、ト短調なんていう。 |
な | ええ、本当にいいですね。 |
ま |
他の調ではだめでしょう? あれは。 |
な | あれピアノで弾いても全然良くないですよ、ギターで弾くといいんですよ。 |
さ | フラット系の美っていうかな、僕はイエペスがフラット系を鳴らそうと思って10弦はいいんですけど、イエペス以外で10弦弾いている、先日もちょっと聴いたのですが、10弦ギターってホールで鳴らないんですよ。不思議。本当に鳴らない、響かない。なぜイエペスだけ響いたのでしょうね。 |