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◆ 第31回 主なテーマ 30回の続き、材の話など

 

 

材料が足りなくなってきたから、ニュー・ハカランダとかマダガスカルとか中南米産ローズウッドとか言う材料が出てきましたよね。

米杉もそう。いや、あれは枯渇してきたからとは違うのか。

そう言われていますね。でもスプルースは今ではいろんな産地のがありますね。

それと作り方ね。ギターは楽器の中でもいまだに結構新しい工夫とかある方だよね。特許がるとはあんまり聞いた事ないけど。

近い話ではあのハンフリーのプレミアム・モデル、レイズド・フィンガーのあれだって誰だってやっているから特許取ってないですよね。

レイズド・フィンガーとかワッフルとか、新しいアイディアね、あれも特許って別に取らないよね。

日本の製作家で実用新案取っている人いませんでしたっけ?

・・・あっ、仙台の巨匠? 駒の穴の所を金属入れて。

ああ、しっかりさせるというわけ?

使ってると穴が拡がるじゃないですか。あれを防ぐという。

なるほどね。そういえば、駒の後ろ側に何か当てて弦を留めるっていうのがあるよね。

ダブルホールの変わりになるやつ。チップ。

そういうアイデアが。

あっ、ありますよ! 堤さん。輪郭がすごいはっきりしてますよ。

それはいい方に変わるんだね。

ええ、音に角がぐっと立つ。

エッジが、

後ろに板当ててどうするの?

普通だと通して折り返して巻く、そのときに弦が引っ張られて上がるじゃないですか? あれがストレートに行くのです。

僕が見たことあるのは白い板で3つ穴が開いていて、

そうです、そうです。

一つ目に通して二つ目から戻して三つ目でまた通したものを弦の間に挟む。

あ、なるほど。そうすると上に引っ張らないから角度が取れるということか…それは確かにそうだな。普通の留め方だとうっかりすると殆ど一直線みたいになることがある。

それには有効です。音がぼけていて、もっとはっきりさせられないかなという時に。だから何でもかんでもいい訳ではないです。もともと角度の取れてる楽器にはいらない。サドルが低くて角度が取れないような楽器に有効。

どこかで見たけどそれの素材を竹で作ったって、

パチンと行きそうでこわいですね。

だけどまぁ、その人は素晴らしい音だとその売主は言ってるんだけど。

竹で作っているからって何かいいことあるのかな。

普通牛骨のが多いですね。

牛骨と象牙のとあるんですよ。

あそこの振動は音に関係あるのと違いますか。

どうだろう。どちらかと言うとサドルの先は振動しない方がいいのじゃないかな。
サドルの素材だって牛骨が象牙になったからと言って音がよくなるとは思えない。雰囲気はよくなるけど。

サドルの素材に凝った人がいて、石にしたり。

石?

石もあるし貝もあるよね。黒檀もあるし。

ウィンナー・モデルなんかはフレットですよね。

そうだね、ハウザーにもフレットのがある。

アイディアとしてはどちらが古いのでしょうかね。それとも同時発生的に…

発生した場所が違うんじゃないかな。僕はドイツ方面が古来フレットなんじゃないかなと思っている。

なるほどね。フランス系は??

フランスはどうだろうか。スペインの方は牛骨が多いね。闘牛があるからかな(笑)それとブリッジの弦の止め方ね。

ピンで留めるのがありますね。

そう、ピンがドイツ・オーストリア系だとすると、それがフォーク・ギターに使うマーチン系統に行ったと理解するとわかりやすい。ネックのところの留め方もそうだね。象牙や牛骨のナットはスペイン式。ここを黒檀で作るところもあるし、ゼロ・フレットのときもある。今はどれもスペイン式だけど、これもトーレス式に倣ったのだろうね。

そうですね。

トーレスへ右へならえ。そんな中であのハウザー(メディアカームにある1919年)みたいなやや無国籍な楽器は珍しいというか貴重というか…あれ無国籍だよね。

この後の年代のウィンナ・モデルはもっとはっきりしています。

これはスペインを部分的に取り入れた気がする。

不思議ですよね。

リョベートのトーレスを参考としたんでしょうか。でもハウザー家ではこういう中間的なものでなく、代々リョベート・モデルと云われているちょっと小さいスパニッシュ・モデルがあるでしょう。

(トーレスの本を見ながら)リヨベートの使ったのは…ここまでわかってるんだね。リョベートの使ったやつはFE-9(1859年)というんだ。これが手本だろうね。

ああ、リョベート・モデルは、なるほどね。

ハウザー製作のFE-16(1868年)の複製っていうのも載っている。これはアントニオ・カーノの為に作られてエミリオ・プジョールに売られた、というから、これはリョベート・モデルの原型じゃないね。

そうですね。

インターネットのJギターでハウザーと検索すると20本位あります。

ほう、ことごとく三世? いや、二世もある?

二世もありますね、71年…三世が…10本。それに何世とか出てないのが若干2本ほど。

そこに出てるという事は、どこかの店で売り物としてあるという事だね。

各所に・・・

ダブっている事はない? 同じ楽器が・・・

う〜ん・・・

だぶついている、とか(笑)

 

一同 爆笑

これは絶妙のギャグ・・・

 

 

 

アグスティン・アルティミラ(1855年)を取り出す。

 

 

「ま」さん、この楽器見ました? アルティミラ。

いや、初めて見る。古いね。

19世紀です。

そんな感じだね。いやあ、ずいぶん凝った作りだなあ。これはどこの?

バルセロナ。

バルセロナか。これは明らかにトーレス以前のスタイルだね。ボディは小さいし。

それでも弦長は650あるんですよ。
実は、19世紀のスペインの楽器ってトーレスは有名だけど、他には滅多に出てこないんですよ。

そういえば、見たことないね。

僕もこれが初めてです。

スペインには各地にそれぞれのギターがあったはずなんだけどね。参考書見ると載っている。

そう、あるはずなんですけどね。出てこない。ラコートとかパノルモとかファブリカトーレ、そういうほかの国の19世紀ギターの方が遙かにポピュラーですよね。

今バルセロナといえばフレタだけど、フレタって言うのは結構エンリケ・ガルシアとかフランシスコ・シンプリシオと似ているところがあって…

そうそう、その系統ですよね。

だけどエンリケ・ガルシアはホセ・ラミレスやマヌエル・ラミレスに習ったはずだから、20世紀になってからのバルセロナだよね。

今のフレタになる前のフレタ、1952年とか3年のは音がエンリケ・ガルシアに近いと思いました。

うん、わかるわかる。

フレタというよりはガルシアみたいな、ちょっとボディも小さくて。

色の濃い音ね。

そうですね、そしてちょっとくぐもったというか

ああ、わかった。エコーのかかった様な、

ちょっと鼻づまりな、というか何と言うのかな

フレタっていうのは、鳴りと響きで言うと響きの多い楽器、他のマドリッドの楽器よりも。

このアルティミラはそれ以前のバルセロナ。幅は狭いし、全然違いますね。

だから古いタイプのバルセロナのギターはもう作られていないのかなそれとも現地に行けばあるんだろうか。

どうでしょう。

コルドバもそうだね。

ミゲル・ロドリゲス、マヌエル・レジェス。

ミゲル一世の先生がラファエル・カサーナと言って、やっぱりホセ・ラミレス一門だから、

それ以降の歴史なんですね。

うん。コルドバは古い歴史の街だからそれ以前のギターもあったはずなんだけど、見たことないね。

グラナダにもギターがあったはずですよね。

そういえばギター文化館にグラナダのギターがあるよ。

濱田先生の書いた物にも載ってるし。

今のアントニオ・マリンは別の流れですか。

マリンは80年代だったかな、ブーシェに習ったんだけど、それ以前の楽器もね、別に古臭くはないよ。

古いグラナダの楽器とは違いますね。

そう。やっぱりトーレス以降、ラミレス以降なんだよ。グラナダにマヌエル・デ・ラ・チーカなんてあったね。

ありましたね。

チーカと古いマリンは似たところがあったような気がする。割りにボディが薄くて硬めの音。

   
  突然ですが・・・本日のデザートのご紹介です
  

  

ギターの歴史でいうとやはりトーレス以前、トーレス以降だと思うけど、それでもそれぞれお国柄もあればスペインではその地方色もあるような、そんな気がすることがあるね。
トーレスはセビリアとあとはアルメリア?

ええ、アルメリアですね。

マドリッドにはフランシスコ・ゴンサレスがいて、その系統がマドリッド派と言ってそれがホセ・ラミレス、マヌエル・ラミレスになって、そこでトーレスと合流したような流れで現在まで来ているのでしょう。

ええ。

だからトーレスから直接と言うか、あのサントスなんか見てもトーレス直接と言うよりラミレス系統から続くものが結構入っているように見える。

ゴンサレスの流れですね。

そう、ゴンサレスから何かしらつながっていると思うんだよね。それでいて、そこからさらに分かれたさっきのバルセロナやコルドバの楽器はまた雰囲気が違うんだよ。

そうですね。マドリードの音とは違います。かといってトーレスに近いとも言えないし。

そこでだよ、却って国をまたいだ方が、ハウザーみたいにトーレスに近いものになっていったような、そのハウザーを参考にして、または直接トーレスを研究したのか分からないけど、現在まで続いているような気がする。むしろスペイン以外の国、イギリスとかドイツで。

ベラスケスはハウザー一世が手本ですね。

ベラスケスは明らかにハウザーから来たと思うんだよね。トーレスから直接来たんじゃなくて。ロマニロスも自分の経歴によると出発はハウザーだよね。
トーレスも見たらしいし、後になってトーレスの研究書を書くのだけど自分が作り始めたというのはハウザーから。

ブリームに出会う前なのかどうなのか知らないですけど、60年代のロマニロスって全然イメージが違うんですよね。

う〜ん。そのころブリームのハウザーを修理したりしたんだよね。

そうですよね。

うん、そこでロマニロス・スタイルが固まっていって、その後トーレス研究して
ケヴィン・アラムは直接トーレスから来ているのかなあ?

80年のイギリスのギター雑誌でトーレスについての分析を書いているのはケヴィン・アラムでしたね。

トーレスを研究していた?

ええ 、20年以上前にトーレスを。後で分かったんです。あっケヴィン・アラムだったんだって。

結構若い時ですよね、それじゃ。

30代だね。

トーレスの研究か、そこで真似すると言うか、誰だって最初は真似して作る訳じゃない。それをどこまで真似するかだね。ベラスケスはハウザーを100パーセント真似はしてないよね。

うん。

ネックとヘッドの継ぎ方が違うし、指板の端の所の仕上げが違うとか。
そうだ、この間見たケニー・ヒル? あれはハウザー風に作っているけど、完全コピーじゃなかった。 ところがケニー・ヒルでも本当にハウザー一世そっくりに作ったって言う楽器もあるよ。指板の端もそうだし。

完全コピーですね。

彼はやっぱり商業ベースでフレタ・モデルやハウザー・モデルとかいろいろ作ってますね。

フレタ・モデルとミゲル・ロドリゲス・モデルもある。

で、最近トーレス・モデルもね。

フレタとミゲル・モデルは実際に見たけど見た目はそっくり。
それはいいんだけど、それが何十年か経って古ぼけてきた時にさ、そのときの人はわかるんだろうか?

遙か先に行って?

そう。

例えばトーレスの贋作があったりとかサントスのがあったりとか、そういう昔の話、あの頃ってまだそういう歴史がないじゃないですか。

うん、それに以前は実物見る機会がそれほどないんだよね。写真も精密なものは今と違ってないし。それをコピーして作った人も事情は同じ。

贋作といってもとかなり稚拙だったりするのですかね?

そうだと思うよ。

当時で見分けがつかない程に作れる人だったら、自分の名前のラベルで出した方がはるかに有利ですね。

それにこういう模造品は何も贋物作って儲けてやろうではないんだよ。絵の模写と同じで修練の一環として作る。それを転売するときに悪い商人に渡ると…

そう言うことかも知れないなあ。

そうだ、今スペインの何とかっていう若い製作家でトーレス・モデルって作っている人いるじゃない。

? テサーノスですか?

そうそう。

テサーノスはもう二世ですよね。一世はもう亡くなっているから。

それをある所で見たのだけど、トーレス・モデルって本人が銘打っているのかな? ラベルに書いてあったかな?

テサーノス・ペレスですよね、それは日本の某商社の企画で・・・

企画? そうだったのか。中覗いて見たら全然トーレスじゃないのよ。バーが途中で終わっている。表面板の端に届いていない。届いてなきゃ補強にならないでしょう。

でも、そこに秘密があるらしいですよ。受け方がハウザーとロマニロスと難しいらしいのですよ。ここ(ライニングとバーとの関係)の受け止めの事、先日も堤さんに聞いたのですけど結構ここは難しいと言ってましたよ。肝心な所らしいのです

ハウザーの中見ると、バーの両端が低くなってそこのライニング中に納まっている。ところがトーレスのはこのバーが同じ高さのままでライニングと同じ位の高さがある。だからここには収まらないからここにリブ・フロックという木を当ててある。ケヴィンも同じ方法。
このリブ・ブロックというのが小さな三角形の事もあれば細長く伸びている場合もある。ボディの厚さ端から端まで、そういうのもあるし、フレタみたいにこのリブ・ブロックと思われるのがバーと無関係の位置にあるのもある。とするとこれはバーを押さえるのではなく割れ止めなんだよね。サントスもリブ・ブロックないのが多いはずなのだけど、Making Master Guitarに載ってるのは珍しくリブ・ブロックがバーの所にある。

あっ、そうですね。

そしてこれはマリンだけど、これもリブ・ブロックが無いの。表面板にはあるけど、裏の方はライニングの中に収まっている。そしてこの方法はブーシェと違うんだね。意外なことに。

ああ。

うん。だからマリンがブーシェに師事したとか言ってもまったく同じにしているわけではない。

表面板振動を横に流すか止めるかというので大きく変わるらしいですよ。

ああ、そうなのか。

トーレスなんかは横に流さない。

つまり横板を鳴らさないということなのだろうか。

表板にすべて

表板と横裏を分ける。

その辺りの作り方が各人まちまちなんだよね。音にそんなに影響するのかなあ。強度には影響すると思うけど。力木が外れるってあるでしょ?

ええ、今井さんのトーレス・モデル、大介のじゃなくて本当のトーレス・モデルですが、全くデザインはテサーノスと同じというか、元になった楽器が同じだからなのですが。今井さんが明言しているのは、これはこうやって作ったら壊れやすいとかという所は真似していないと。

そうだね。欠点まで真似することはないからね。

完全コピーではないそうです。

トーレス・モデルではあるけど。

トーレス・モデルの今井ギター、松井さんがサントス・モデルとかブーシェ・モデルとか作っているよね。

あれもいいサントスのコピーです。どこまでコピーなのか松井さんと話した事はないですが。

あとブーシェ・モデルはどこまでブーシェ・モデルなんだろうね、5本バーだとは言っていたけれど。

雰囲気が最初、「えっ」と思ったのは鎌田さんのを完全コピーした。
ネックもそのままの。その時の1本目、2本目位まではちょっと。

だんだん作り慣れて来て自分の物になってきた。

様な気がしますね。

バイオリンなんかは殆ど何とかモデルなんだそうだよ。

オリジナルじゃないのですか?

うん。だってもう新しい事やる余地がない、新しい事やったらまず失敗するから。

デザインだってね。

同じ寸法で作らなくてはいい音が出ないことが分かっている。

ギターだったら形やデザイン違っても認めてくれるけどバイオリンはそんな事ないですもの。

バイオリンはいろんな楽器見ても殆ど見た目には違いが分からないもの。バイオリン・マニアが見たら解るのかも知れないけど。こういう(ギターみたいな)歴然とした違いはないよ。殆ど同じ格好しているしf字孔も同じ様に見えるし・・・ちょっと違うらしいけどね。角度とか、横からの出っ張りとかもいくらかは違うらしいのだけど、

横板の深さとかね。

ギターみたいに8センチから11センチなんていう差はないよね。

新しい試みはやり尽くされたと言うことですか? 昔のバイオリンから今のバイオリンに変わるというのは。

バロック・バイオリンってあるよね。

駒高くとか指板の角度とか何か、指の向きが変わったとか。

アマティだとかストラディヴァリとかクレモナの楽器はそもそもバロック楽器なんだよね。オリジナルの形態はネックはボディに対して一直線だったの。ギターはやや立っているでしょ? これに対しバイオリンは下がっている。昔は一直線のネックに対して指板が下がる形でついていた。

ああ、昔は。

だからネックがハイポジションに行くほど厚くなる訳。昔はそんな位置で弾かなかったんだって。

そういう楽曲がなかったと。

そうそう。だんだん難しい曲が出てくるとそれでは弾きにくいのでネックをこう下げるように直している。ネックも少し長くしているし、駒をさらに高くした。
それが今の改造点。これをモダン・バイオリンというらしいよ。古くからあるバイオリンもネック変えてモダンに変えてあるんだよね。

ボディは同じで。

うん、ボディは同じで。今の楽器は最初からその改良型:モダンで作る。そういう事は変えたけどバイオリン本体は今バイオリン作る人はストラディヴァリならストラディヴァリと同じ寸法で作る。

寸分違わず作る。

正確にいうとストラディヴァリはストラディヴァリでちょっとずつ違うのだそうだ。だからどれと寸分違わずとは言い切れないらしいよ。目で見て解らない程度に、トーレスも一本一本ちがうでしょ? サントスだって違うじゃない。そういう意味で違うんだけど、まあ平均値くらいの所でバイオリンもずっと作る。

ハウザー一世だっていっぱい色々な物作っている。

僕たちが知っているハウザー一世って言うのはハウザー一世の後期のスパニッシュ・タイプでしょう。

スパニッシュ・スタイルですよね

バイオリンの場合は新しい事やったらまずみんなに笑われて相手にされないのではないのかね。スモールマンみたいな事やったら、だれも買ってくれない、相手にされないんだ。それだけ完成されているのかも知れないし保守的なのかも知れない。

オーケストラでやろうとしたらみんなそうなりますね。

そうそう。オーケストラでやる時に一人変な楽器が入っていると、困ってしまうよね。

小さなアンサンブル程度ならいいですけど、でもそのために持ち替えたりすると。

ところがビオラって結構色々あるから不思議なんだよ。色々な大きさのがある。

今進化論を考えたのですけど生き残るのはやっぱりメインじゃない所が生き残っていくんでしょね。もしかしてバイオリンを変えるとしたらビオラから変わっていくかも知れないですね。

バイオリンは、まあ変わらないのじゃないかなあ。

そのまま残って新しい改革がね。

ビオラっていうのはもともとバイオリン族なんですか。

バイオリン族でしょう。

ああ、そうか。ただそれの大きい系でチェロとか。

コントラバスだけ違うの。コントラバスはギターの低音と同じ音程、4度間隔でしょう。

ああ、そうですね。

バイオリン族は5度間隔。

バスは違うから。

そう、形は相似形しているけどね。だからバイオリンの世界がすごく保守的なのか。まあクラシックがそもそも保守的でオーケストラに違う楽器を入れる余地がないんだか、バイオリンって全然変わらないね。

それに比べると未だにギターはね。

そう。ギターは未だにまだ変わった物を考える人がいて、それをまた一流の奏者が使い始めたりするから。

そうですよね。

と言うことはその分決定打が出ていないとも言えるし、さっきの進化論の話で言ったらバイオリンって言うのは決定打が出たあげくに近親結婚で滅びていくのかも知れない。

近親結婚

という言い方はちょっとおかしいけど、つまり何の試みもされないままずーっとずーっと作られて行って、技術が停滞するという意味。

やがて、ストラドの時代というかアマティの時代の楽器は使えなくなる。

そう、今はストラディやガルネリが最高といわれているから、製作者はその修理に追われて新作はそれほど作られてない訳。普及品は作られているかも知れないけど。

よくストラディヴァリウスとかガルネリウスとか聞くけど、その後例えば50年後とか100年後で次の名器はこれだという話はあまり聞かないですね。

えーとね

あるのですか?

クレモナ最後の名工と言ってロレンツォ・ストリオーニって言う人がいる。

あ、いるんだ。

いるにはいるんだけど、だけどストラディヴァリウス、ガルネリウスの名声には比ぶべくもない。あと、なぜかクレモナの街でストラディヴァリの息子って言う人も相当落剥したらしい。最後は家を捨てて出て行ってしまった様な。だからバイオリン作りがあんまり商売にならなくなった時代があるらしいのだね。でもクレモナのバイオリン作りって言うのは、今でもいるのだよ。復興したらしい。クレモナには公立の製作学校もあるし、日本人も行っている。

贋作なんかで言えばギターよりもバイオリンの方がよっぽど多いでしょう。

それはもう昔、芸大事件のガダニーニってあったでしょ。ガダニーニはストラディヴァリの孫くらいの年代でクレモナにもいたことがある。

ギターもね、ガダニーニって言うと福田さんが使った楽器とか、ガダニーニ一族の末裔ですかね。

だと思うよ。
アマティ、ストラディヴァリウス、ガルネリウス、その次くらいの名前だよ、ガダニーニは。あとカルロ・ベルゴンツィとかね。

ああ、もう知らないな。

その辺りがバイオリン好きなら知っているクラスかな。ベルゴンツィはストラディヴァリの工房で亡くなった後そこを借りて作った事がある。

そういう人達は師匠の名を騙った贋作を作ったのですかね?

どうかなあ。ストラディヴァリには息子が二人いて、彼らは親父のアントニオの名前で作っていた。ストラディヴァリが90位まで生きたから息子は70位で亡くなったのだけど、ストラディヴァリとほんの5年違いくらいで亡くなっちゃったんだね。そして、そのふたり:フランチェスコとオモボノっていうのだけど、彼らの名前の楽器はほとんど、あるいは全然ないらしい。しかも、大変残念な事にそのまた後継者はいないんだ。

途絶えてしまった…

アマティっているでしょう。アマティって代々いるのだけど、ニコロ・アマティっていう3代目が一番優秀で、普通アマティといえばこの人をいう。その弟子にストラディヴァリとかガルネリの初代とかがいた。同じ工房で作っていたらしいのだけど、これもアマティの名前で作っていたらしい。
こういうのは贋作とは言わないよね。

これはフレタ・イーホとかホセ・ラミレスみたいな話ですね。贋作じゃないですね。

ニコロ・アマティには息子がいなくて、いや、いたかも知れないけど才能がなかったか何かで、ストラディヴァリとかガルネリの祖父がそこに弟子として入っていた。だからそこに技術が伝わったんだね。

才能のある若者に伝わったんですね。

ストラディヴァリにはしっかりした助手の息子がいて、余所の人間を入れなかったから、そこで終わってしまったのかも知れない。

外に出さなかったのですね、企業秘密として。

そこで言うと、何となくサントス・エルナンデスとか・・・

サントスもそういう様な話を聞きますね。

ま 

そこへいくと弟子使って沢山作ったのはけしからん様だけど、ホセ・ラミレスって言うのは代々沢山世に色々な人を・・・

育てましたよね。

そう、すごいすごい。それが功績。

どれほど育ったかは色々評価の分かれる所ではあるけど。

やり方はラミレス一世から今の四世、五世? まで変わらないと思いますね。いっぱい職人を雇って、だけどたまたま60年代三世の時代にいい職人がいっぱい居たという風に言えますね。

色々あると思うけど、セゴビアが使ったって言うのが一つね。それから世界的にギターがブームだったでしょ? 需要があったんだね。高級量産品というのか、いい物を沢山作る、高い水準で沢山作ってほしいという需要が。

日本だって当時はお弟子さん沢山いたわけだし。一人で作っている訳じゃないですしね。

中出さん、河野さんはもちろん、野辺さんの所でも結構作っていたよ。

そうですね、堤さんもそうですね。

田村兄弟:宏、満がいたでしょう。

ああ、そうですね。でもこうしてみると中出さんの所が一番ラミレスっぽかったのかも知れませんね。

やり方としたらね。

結構先生の分からない人がいますね。

そういえば、例えば河野さんの先生は誰なんだろう。

宮本金八さん?

宮本金八さんは中出阪蔵さんの先生。宮本金八さんは日本のバイオリン作りの草分けみたいな人でそこから分かれたから

河野さんってセゴビアみたいなもんじゃないですか?

自分で、一人で?

ええ。

あと野辺さんとかも誰なんだろう? 指物師の家系で家具作っていたというけど、ギターの先生っているんだろうか? そう思わない?

今度息子さんに聞いてみようかな。

僕も不思議でしょうがない。あの邦治、正二。どちらもどこから始めたのか、それから峯沢泰三というのはもともとバイオリン作りなんだ。

宮本金八ルートじゃない・・・

じゃないの。関西に峯沢というバイオリンの一門があったらしい。

峯沢泰三さんって大阪ですか?

出身はね、その後東京に住んでいたけど。上野辺り。
ギター博物館に昭和15年くらいのがある。そうだ皇紀2600年って書いてあった。

コウキ? 

皇紀、戦前の日本独自の数え方で、神武天皇即位から数える、ということになっている。皇紀2600年は昭和15年、西暦1940年。なにも見てきたわけじゃないよ(笑)

1940年?

そう、それになんとトルナボスが付いているの。

へぇ〜〜

2本あって1本にトルナボスが付いてる。

金属のトルナボス?

いや、ガラス越しだからよく解らない。

ガルシアのって金属ですよね、トルナボス。

あ、そうか、エンリケ・ガルシアのあれを参考にしたのかな?

エンリケ・ガルシアは結構前からね。トルナボスと言えばエンリケ・ガルシア。

溝口さんの教則本に載っている自画自讃のやつでしょ? そうかあれを参考に作ったのかも知れないな。

 

 

 

つづく

 

 

・・・つづく・・・
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