放談トップ  次へ Top

◆ 第1回 主なテーマ ブーシェを中心にハウザーなど銘器談義
この日、「ま」がロベール・ブーシェ1968年を持ってふらりと来店。メディア・カームにはちょうど1936年のハウザー1世1980年の2世があった。「ま」はハウザー25年、31年、34年も持っている。そこでこれらの楽器を肴にしての放談となる。尚、製作家の今井勇一さんが飛び入り参加してくださいましたが、今井さんとのお話は改めてこのコーナーでご紹介いたします。
ブーシェを代わるがわる弾いて

やっぱりシックな音だねえ。含み声というのかな。
雰囲気がありますね。楽器の周りに漂うような。・・・「ま」さん、今どの楽器を一番弾いていますか?
・・・これとアグアドかな。だから今このブーシェは調子がいい。どう、バランスいいでしょう。
いいですね。
これは、ブーシェの中では普通と同じバランスで弾ける楽器だよ。もっと独特のバランスをもったのが多いんだ。1弦だけきつくて3弦のハイ・ポジションが鳴るとか。
この前見たのはそんなにバランス悪いという気はしませんでした。張りはきつかったけど。
ああ、あれは僕も見た。弦はオーガスティンの赤が張ってあったみたいだった。ナンバーはこれと3番違いなのだけど、表面板は兄弟ではなかったみたい。よく鳴っていたよ。
「ま」さん、弦はなにを?
この前から変えてね、高音がプロアルテ、低音がサバレスのコラム。どちらもテンションのあまり高くないほう。・・・インターネットに松村さんの作ったブーシェのHPあるの知ってる?年賦があって面白いよ。
あ、調べてみましょう。
    
プリントアウトしてくる。
そのあいだ一休み、ハウザーの36年を弾いて
    
やっぱり音に粘りというかコシの強さがあるね。ハウザーが他の楽器と違うところはこの粘りだと思う。やっぱりこれはアマチュア愛好家向きの楽器ではないね。
こういう音造りはハウザーの中でも20年代とはまた違いますね。
20年代はウィンナ・モデルだったり・・・、セゴビアがハウザーと決めたのは30年代、本によると33年からとなっているかな。
トーレスの本(ホセ・ルイス・ロマニロス マリアン・ハリス・ウィンスピア著「アントニオ・デ・トーレス ギター製作家―その生涯と作品」以下「トーレスの本」)にセコビアとの出会いとか書いてありましたね。でもウィンナ・モデルとスパニッシュ・モデルと重なっている時期もあるし。
セコビアの伝記によると、邂逅は24年だというね。
20年代にセゴビアとハウザーは会っているんですよね。
会ってそこでコピーさせて、翌年から送られてくる様になったとか。その頃、日本にも来ているんだよね(最初の来日)。
20年代ですよね
そう、昭和のひと桁くらいに来ている(1929年:昭和4年)。その時はマヌエル・ラミレスを弾いたのだけれど、もう一本ハウザーの28年というのを持ってきている。
できたてのを持ってきているんですね。
そう、スペアというか、万が一の時に備えてかなあ。昔出た小倉俊さんの「ギター辞典」というのに出ている。今は古本屋を捜しても見あたらない本だけど。
ああ、黄色い箱の厚い・・・。
上下2巻で、そこにセコビアがもう一本持ってきたとある。思うにしばらくは並行して使っていて、30年代にはハウザー一本に絞られたのではと。
有名なのは37年ですね。
そう、37年。でも色々なハウザーを使っているはずだよ。結構色々な写真が残っている。ヘッドが変わっているのとか。
LP時代の絵でありましたよね。
写真でもあった。この間ある店でレコード見たの。中身はCDでもっているんだけど、CDより写真が大きいし、このジャケットのためだけに買おうかと思った位・・・。2枚組のものでね。
SP時代の録音をLPにした2枚組のものですね。
His Masters Voiceか何かの。(ギターの)ラベルは古いもの。
ああ、大きい、先日見せて頂いたものが大きいラベルの最後の方ですね。31年・・・。
そう、あれは31年。・・・30年過ぎまであれがついているみたいだね(シェルドン・ウリック著「ファイン・スパニッシュ・ギター」を調べて見ている)。
    
ここで、件のブーシェ年賦を広げる。表面板の厚さまでも出ている。
    
これによると製作期は4期に分けられるというんだね。
「ま」さんのブーシェは表面板何ミリくらいなのですか?
よくわからない・・・。
ナンバーは?
120。
先ほどの資料によると後半というか。
うん、第3期。厚さは2ミリとか書いてあったっけ。
ブーシェも張り強いですよね。
まあ、強いね。でもこれほど(ハウザー)ではないね。僕はやっぱりハウザーは100年楽器だと思う。100年どころか200年楽器かも。あのセルシェルの34年の、あれくらいぼろぼろになると粘りが消えて弾きやすくなる。あれくらい弾き込むと軽いタッチになってくる。それがハウザーの最大の特徴。
このブーシェはきれいですね。
うん、でも全体にブーシェというのは、割りに大事にされていてきれいなものが多いと思うけど。ブーシェの154本の内、50本位はあまり弾かない人の所に行っているのではないかな。ブーシェというのを我々が知ったのは70年位だよ。
86年に亡くなって、154番はジャン・ピエール・マゼが完成させたと・・・。
そして工具とか材料はマゼに譲ったのか・・・。
「ま」さん、ジャン・ピエール・マゼは・・・?
見たことある、似ているけど、やっぱりブーシェとまでは行かない。
アグアドとベルサールみたいな、でもベルサールのレベルまでは行っていない?
でもまあ、ブーシェに似ているのがあるかというと、あれかな、一番似ているのは・・・、フランスのほかの楽器、ベディキャンとかフレドリッシュのことを似ているということがあるけど、全然似ていない・・・。
ブーシェとは違います。
フレドリッシュはフランス人が作ったフレタという気がする。
「な」君はフレドリッシュの割と新しい松を使っているんですよ。
ほう、そうなの。・・・フレドリッシュは今年いくつ?
たしか68・・・72だそうです
ジャン・ピエールって結構ネック太いよ、ころんとしてる。でもブーシェもそうだよね。
べディキアンもそうなんでしょうね、
べディキアンも少しの間、ブーシェにアドバイスを仰いでいた。
ブーシェ展の時にべディキアンがブーシェモデルというのを出していましたね。
ブーシェはね、もっと霞の中の様な音がするものもあるよ。ふわっとしている。
小原聖子さんが注文しているのですよね、そういう注文も受けたのでしょうか。アグアドにも注文しましたよね。
今の佳織ちゃん、手が小さいでしょう。ロマニロス、あれはナットくらい換えてあるのかも知れない。
実は先日のロマニロス・アンド・サンは非常に珍しくて、ちゃんとネックの幅が狭くなっていたのです。リクエストが通ったんです。ロマニロスは広いでしょう、でも狭くしてくれてあったのです。
僕のは46ミリある、43位に変えようと思っている。
46は広いですね。
うん。いくらなんでも・・・。
このごろブーシェは滅多に出てこなくなりました。
ブーシェなんかは、今ひょっとして出てくるとすれば、もう誰かが持っていたもの、あああれか、という様なものしか出てこないと思う。例えば、アメリカとかフランスから出てくるという事はあまりないと思う。
ブーシェに関してはそうでしょうね。
出てくるとしたら、ああ、あの人が手放したんだ、とかその前の出自までわかるような、というか。
「ま」さんのは5本バー?
5本だよ、それと駒の真下に太い長いのがある。
トレブルバー、「メイキング・マスター・ギター」(ロイ・コートノル著)に設計図がある。
普通のものよりずっと高い、これはブーシェの特徴。
アンダーハーモニックバー、アーチにしてあるのですね。
    
構造の話、本(トーレスの本およびメイキング・マスター・ギター)と現物を交互にみながら、
    
第3期といっても同じではないのかな・・・7ミリで見えないなら抜けてない。
番号によってそれぞれ違うとか・・・。
(バーにトンネルがあるかどうかの話し、一同興奮状態)
抜けてるか抜けてないか・・・。
あっ、抜けてる。トンネルだ。
解決しましたね(笑)。
今井さんに云わせるとああいうトンネルとは、故障のもとだというんだけどね。
そこが微妙に下がってきたり、触れたりして、そこから不良振動が起こるのですね。
胴体は一番くびれているところでね、細いところで、その意味では一番丈夫なところでもある。
(本)こんなのを見ているといろいろ面白いものですね。
とっくに知っていたと思うことが・・・。
ありますよね。
そう、知ってるつもり・・・。
やはりトーレスの本、もう一度じっくり読んでみなくてはいけませんね。
そう、うっかりした事は云えないね(笑い)
それでは、今度じっくり勉強会を・・・レポート提出とか。
     
一同安心して再びブーシェを弾く。
    
海外でブーシェ使っているという人(プロ)はあまり聞かないですね、イタリアのステファノ・グロンドーナ位ですかね。ブーシェ弾きというのはあまりいないはずです。
グロンドーナはトーレスとブーシェでしたね。
大昔にブリームとかプレスティ・ラゴヤとかね。ラゴスニック、オスカー・ギリアとか・・・。
ラゴスニックはヤマハ使ってました・・・。
まあ、こういうものは道具として使いつぶす気は起こらないよね。

・・・つづく・・・ 次へ  放談トップ  Top